人形技師と狂王

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これは遠い昔の、今は亡き国での物語。その国は“基本的”には、とてものどかで豊かな国だった。気候に恵まれているので年中豊作で、近くに流れる川は澄み渡っていて、飲食に困ったことなどなかった。特産物も多く、貿易では常に有利だったため、お金に困ったこともなかった。 この国が困ったことといえば、狂王の存在くらいだ。狂王は素っ頓狂な罪状を言い渡しては、国民達を罰した。 狂王は偵察と称して、前触れもなしに街を出歩いた。それだけならまだしも、人の家に勝手に上がり込んでしまう。 この前なんかテーブルの下に林檎を落とした夫人がいた。可哀想なことに、林檎を取ろうとテーブルの下に入ったところで狂王が家に上がり込んでしまった。夫人は「狂王がいるのにテーブルの下に隠れた罪」で、狂王のお供である魔法使いに林檎に変えられ、腐って死んだ。 喧嘩をしていた幼い兄妹は、「兄妹喧嘩という恐ろしいものを見せた罪」で、右半分が兄、左半分が妹のあべこべ人間にされてしまった。 この狂王、人形収集という趣味を持っていた。人形の中でも機械人形(オートマータ)がお気に入りで、国内のとある街に、素晴らしい機械人形を作る人形技師がいると聞き、彼を城に呼び出した。 人形技師は若い男で、彼には街1番の美人妻がいる。その若夫婦は、街1番のおしどり夫婦として有名だ。 狂王はふたりの家に押しかけた。そしてずらりと並ぶ機械人形達を、すっかり気に入ってしまった。 「一体作るのに、どれほどの時間がかかる?」 「ひと月ほどです」 「ではひと月後、ここにあるどの機械人形よりも美しいものを作って、城に来るがいい。その時になったら、使いをよこそう」 「分かりました。ではいくつか聞きたいことが……」 「ではな、楽しみにしておるぞ」 狂王は人形技師の話を聞かずに出ていってしまった。
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