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「困ったな……」
人形技師は頭を抱えた。十人十色とはよく言ったもので、“美”も人それぞれである。男を10人集めても、金髪の女性がいいと言う者もいれば、黒髪の女性がいいと言う者もいる。
つまりは好みの問題だ。
世界中の人達が「この人形は世界一美しい」と言っても、狂王本人がそう思わなければ、意味が無い。
「ねぇあなた、今は亡き女王に似た機械人形を作ったらどうかしら?」
人形技師は妻の言葉にハッとした。
「そうだ、そうしよう! ありがとう、君はなんて賢い女性なのだろう」
人形技師は、妻を抱きしめて頬にキスをすると、作業場に籠った。
「女王様は波打つブロンドの髪をしていらした。傷一つない、玉のような白肌だった。澄み渡った空のように、綺麗な青色の瞳だった……」
人形技師は女王の特徴を思い出しながら、機械人形を作り上げていく。
そしてひと月後、人形技師は見事な機械人形を作ってみせた。
「できた……、できたぞ!」
「まぁ素敵! きっと王様も満足してくださるわ!」
ふたりは手を取り合って喜んだ。
無作法にドアが開き、狂王のお抱え魔法使いが入ってきた。
「王の使いだ、機械人形はできているのであろうな?」
魔法使いは深緑のローブから、不機嫌そうな顔を覗かせる。
「えぇ、ついさっきできたところです。準備しますので、少々時間をいただけますか?」
「……はやくしろ」
「ありがとうございます」
人形技師はこの日のために取り寄せた、金色の箱に機械人形をそっと仕舞った。そして持っている服の中で1番上等なものに着替えると、魔法使いに声をかけた。
「お待たせいたしました」
「ついてくるがよい」
魔法使いはローブを翻して背を向ける。
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