人形技師と狂王

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「あなた、気をつけて」 「あぁ、行ってくるよ」 人形技師は妻の頬にキスをすると、魔法使いと共に城へ向かった。 城に着くと、人形技師は玉座の間に通された。絢爛豪華なこの部屋には、様々な種類の人形が並んでいる。 「おぉ、来たか。どれ、見せてみよ」 狂王が言うと彼の前に机が置かれた。 「あの机に機械人形を置くがいい」 魔法使いはぶっきらぼうに言うと、狂王の隣に立った。 「はい、こちらでございます」 人形技師は狂王の前に置かれた机に箱を置くと、丁寧に箱を開けた。中には白いドレスを身にまとった人形が横たわっている。 ブロンドの髪も、サファイアでできた青い瞳も、息を呑むほど美しい。 「なんと立派な機械人形だ……」 狂王は機械人形を箱から取り出すと、机の上に立たせた。機械人形はドレスの裾をつまみ上げ、優雅に一礼する。 「こんなに美しい機械人形は初めてだ! 世は感激したぞ!」 狂王は興奮気味に言う。 「身に余るお言葉です」 人形技師は歓喜に震えながら、深々と一礼する。 「確か、そなたには若く美しい妻がいたな」 ふと、狂王は思い出したように言う。 「えぇ、まぁ……」 人形技師は警戒しながら、狂王を見つめる。 「そなたの妻を機械人形にしてみせよ、きっと美しいだろう」 「それは、妻に似た機械人形を作れということですか?」 嫌な予感をよぎらせながらも、人形技師は確認する。 「“そなたの妻を機械人形にしてみせよ”、と言ったのだ。そっくりの機械人形ではない、妻自身を機械人形にしてみせよ」 「そんな……! 無茶です、人間を機械人形にするだなんて!」 人形技師は声を荒らげる。 「やってみなければ分からないだろう。そうだな……。ふた月後、ふた月後にまた使いをやろう。今日は帰って良いぞ」 「ですが……」 「行くぞ」 魔法使いは食い下がろうとする人形技師の腕を掴み、城の外へ引っ張り出した。
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