山笑う季節に

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「暖かいですね」 隣に座る俺に、彼女は笑顔で話しかけてきた。 俺は小さく頷き、まだうっすらと雪が残る遠くの山に視線を移した。 長い冬はいつの間にか終わりを告げ、今朝のニュースでは来週には梅が咲きそうだとか言っていた。 「今日はお茶なんですね」 少女は俺の右手に握られた緑茶を見て物珍しそうな顔をしていた。 彼女の名前は神谷杏(カミヤ アン) 毎朝出勤前にここで他愛もない話をする。 「こんないい日にはいつもと違うのが飲みたくなったんですよ」 「確かにコーヒーよりお茶って気分になる日きですもんね。あ、そういえば知ってましたか?昨日、いつもの自販機におしるこソーダっていうのが追加されたみたいですよ」 「ああ、それならさっき見つけたよ。あれはちょっと飲みたくないなあ」 「そうですか?私ちょっと気になったりしちゃってます」 苦虫を食べたような顔の俺とは対照的にさっきと変わらない満面の笑みで彼女はその後も楽しそうに話してくれた。
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