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バン!
私の思いとは裏腹に、号砲は予定時刻に鳴った。
選手が一斉に走り出す。
体や足がぶつかるスタートは、あまり好きじゃない。
私は先頭集団を引っ張った。
というより、いつものペースを守ろうとしたら、いつの間にか先頭に立っていた。
小気味のよいピッチが、私の真後ろからずっと聞こえていた。
後ろを振り返らなくても翼だとわかった。
5000mを過ぎたあたり、翼は私に並んだ。
さすがに声をかける余裕などなく、私たちは並走しながらお互いのピッチを守る。
私と翼のポニーテールが、私たちの走るリズムに合わせて揺れる。
ラストのトラック1周、勝負はここと決めていた私は一気にスピードを上げる。
そんな私を見て、翼は楽しくて仕方ないといった顔で笑った。
「杏奈! 勝負だね!」
翼は大きな声でそう言い、私に並び、そしてあっという間に抜く。
待ってよ!
目の前で揺れるポニーテールにそう叫びたかった。
どんなに懸命に足を動かしても、翼の背中が少しずつ離れていく。
体が少しずつ冷えていくのが、わかった。
私がゴールしたのは、翼の4秒後だった。
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