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翌日も翼とは一言も話すことなく、部活に参加した。
私と翼のギクシャクした感じはすぐに部員たちに伝わったようで、何人かに、翼と何かあった? と尋ねられた。
あいまいに答える私に、翼に負けたことなんて気にするな、とハッキリ言う先輩もいた。
とうの翼はと言えば、私の態度にもめげず、いつものように一緒に登校し、いつものように話しかけてきた。
ウォーミングアップのストレッチも、いつものように私に駆け寄ってきて、背中押すよ、と笑う。
「杏奈、D組の桜井くんってカッコいいよね」
私の背中を押しながら、そんなどうでもいいことをサラッと言う翼にイライラする。
どうしてそんなに変わらないわけ? と問い詰めたくなるけど、あまりにも子どもだと思ってやめた。
「そうかな」
「そうだよ。杏奈が好きじゃないなら狙っちゃおうかな」
「私は関係ないでしょ」
「いやいや、私は杏奈のおかげで今も楽しく学校に通えているわけだしさ。杏奈に一番幸せになって欲しいんだよ」
「翼が楽しく学校に通えているのは、私のおかげじゃないよ。それに、翼には陸上の才能もあったし結果オーライじゃない?」
「まだまだ杏奈には敵わないけどね」
「昨日、私に勝ったじゃん」
「1回だけでしょ」
「1回でも……」
私は1回でも翼に負けたくなかった。
そう言ったらどんな顔をするんだろう。
「ん?」
「何でもない」
「そう」
自分の器の小ささに嫌気がさした。
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