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慌てて玄関に走り、ランニングシューズを丁寧に履いて急いで外に出る。
家の前の坂の下に、小さくポニーテールが揺れているのが見えた。
速いんだよ、翼は。
今までどんなときでも欠かしたことがない、ウォーミングアップも忘れて、翼を追いかける。
私は翼に何か伝えなきゃいけない。
何を伝えればいいのかわからないけど、私を目標と言ってくれた翼に、何かを伝えなきゃ!
思ったように体がついてこないけど、走るのをやめなかった。
やめるわけにはいかなかった。
坂の下まで降りると、翼が田んぼの端で体育座りをして、両膝に顔をうずめていた。
翼は泣いたとき、いつもあんな風に小さくなる。
私はいつも、その背中を優しくさすっていた。
「翼……」
「杏奈……」
翼は顔を上げ、目と目が合うと、恥ずかしそうに笑った。
「……何となく杏奈が追いかけてきてるってわかったよ。藤ヶ峰の空気が揺れたんだ。杏奈の走りで」
「何それ。オカルト?」
「ううん。絶対、そうだったよ」
「意味わからないって。……翼、帰ろう?」
「杏奈、私は杏奈に憧れてるんだよ」
「わかったって。わかったから」
翼はまた恥ずかしそうに笑った。
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