5人が本棚に入れています
本棚に追加
翼の隣に座り、背中を優しくなでる。
「……翼。私さ、翼が陸上を選んだとき嬉しかったんだ。……翼と走るのって本当に、誰と走るより気持ちいいんだよ」
考えるより先に言葉が出ていた。
そうか――。
私は翼と走るのが好きだったんだ。
「……でもね、それは私が前にいたからだったみたい。私は翼の前を走ってることに……満足してたんだ」
翼は体育座りの膝の上にまた顔をうずめる。
泣き顔を見られたくないんだろう。
「だからさ、翼に抜かされたとき思ったんだよ。陸上を……走ることを翼に取られちゃったら……。私の、私らしさはどうなっちゃうんだろうって。私、それがすごく怖かった。私の誇りが翼に簡単に取られちゃいそうで」
翼は鼻をすすりながら、
「……杏奈の走りは真似できないよ」
ポツリと言った。
「翼、走らない?」
「え?」
「坂の上まで! 競争っ!」
私が笑うと、翼は泣き顔でこっちを向いた。
「私、走るのが好き。翼よりも絶対。だから負けたくないんだ、翼には」
「……私も走るのが好き。杏奈みたいに走れたらってずっと思ってる。……私はきっと、杏奈より走るのが好きだよ」
「絶対、負けないから」
翼の肩を軽くたたく。
さぁ、走ろう?
最初のコメントを投稿しよう!