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真新しいウィンドブレーカーとは対照的な、使い古されたランニングシューズで、コンクリートの道路をしっかりと踏んでいく。
コーチには、コンクリートの上を走るな、と言われた。
必ず故障につながるから、と。
だからといって、どうしろって言うんだ。
走りたい、走らなきゃいけない。
私は私を突き動かすこの衝動に応えなくてはいけないのだから。
小さなストライドを強く意識する。
私はストライドじゃなく、ピッチで勝負するタイプだから。
―-誰だって不調はあるさ。大丈夫、お前は陸上界の宝だろ。
―-杏奈、自暴自棄にならないで。もっと自分を大事にしてよ。
ぽこぽこと、頭の中にコーチの言葉や、友だちの励ましが浮かんでくる。
この時点で、自分がもう走ることに集中できていないことがわかった。
五感が溶けていく、最高に調子がいいときの、あの感覚。
どうすればまた味わうことができるんだろうか。
いくら足を動かしても、いつものフォームを意識しても、スピードは一向に上がらない。
なんだよ、怖いのか。
体がスピードの上げ方を忘れている。
どうすれば、速く走れるんだっけ?
考えれば考える程、体の動きはバラバラになって、あぁダメだ。
立ち止まって空を見上げると、嘘みたいなきれいな星空が広がっていて、なぜか泣きたくなった。
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