あの日の向こう

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洗面所に向かった私は、まず手を洗って、頭から水をかぶった。 肩につくまで切った短い髪が重くなっていくのがわかる。 鏡に映る顔は、左目の下の泣きボクロ以外、翼にそっくりだった。 お母さん譲りの色素の薄い茶色の目に焦点を合わせると、自分の顔がだんだんとぼんやりしていく。 嫌だな、どうしてだろう。 自分のなかの汚い感情と向き合えない。 自分が涙を流しているのか、顔に落ちた雫なのか、私自身は理解しているはずなのに、なぜか答えがわからなかった。 「走ること」で翼に負けるなんて。 それが、こんなにイヤなことだったなんて。 翼、ごめんね。 私は私の気持ちをどうすることもできなかった。
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