【怖い商店街の話】 ネイルサロン

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彼女が現れたのは、オープンして一ヶ月ほど経った頃でした。 閉店三十分前になり、店には私とレイコさんが最後のお客さんのネイルを施術していました。 すでに日が落ちて、窓ガラスの向こうはアーケードの控えめな明かりが見え、向かいのお店はすでにシャッターが閉まっていました。 ふと、一人の女性が店の前に立ち止まりました。 手にはオープン時に配布したチラシを持っていて、店に入ろうかどうかと右往左往している様子でした。 私はレイコさんに知らせようとしましたが、すでにレイコさんも気づいているようでした。 レイコさんが施術を終えてお客さんを丁重に送り出すと、店の外にいた彼女に話しかけていました。 最初は遠慮しているようでしたが、レイコさんの話術で警戒心を解け、彼女は店に入ってきました。 「いらっしゃいませ」 私は他のお客さんの施術をしながら、彼女に挨拶をしました。 彼女の服装は上下グレーのセーターとロングスカートというとても地味な恰好で、髪はボサボサで不揃いでした。 挙動不審にしきりに指先を気にしながら、私のことをチラリと見て会釈すると、レイコさんの相席に座ったのでした。 私のお客様はそんな彼女を見て苦笑いをして、施術が終わるとそそくさと帰って行ってしまいました。 私は彼女を見て、変わった人だなぁ、と思う程度でした。 そんな彼女にも、レイコさんは隔てなく優しく接していました。
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