<第一話>

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 うむ、今日も非常に良い雰囲気である。  坂ノ上小鳥(さかのうえことり)は、一人満足げに頷いた。小鳥が通う中学校の、放課後の教室。この時間にはすっかり人が捌けたこの場所にいるのは小鳥一人である。もうすぐこの場にいる人数は三人になる予定だった。いつもの仲良しグループ、秋田千穂(あきたちほ)松尾美紅(まつおみく)。ここ最近自分達の毎日の習慣がコレである。  小鳥の机の上に広がられた画用紙。  そこに書かれた鳥居と平仮名、そして十円玉。  非常にオーソドックスかつ古くからある遊び――こっくりさん、である。ちなみに、自分達は三人とも美術部所属。特にオカルトなものに傾倒しているのが小鳥であり、画用紙に文字を書いたりちょっと凝った鳥居を書いたりといった作業するのは主に小鳥の仕事であった。ホラーも絵を書くのも大好きである。ここにロウソクとか塩とかあったらもっと雰囲気出たのにな、といつもそう思う。さすがにいろいろごっちゃになってる気がしないでもないし、火事になったら怖いのでロウソクなんてものは用意できないのだが。それに、見つかったら真面目に叱られるのは間違いない。 ――さて、今日はみんなどんな質問を用意してくるかなー。  占いだの、儀式だのというのが昔から大好きなのが小鳥だ。その割に知識が偏ってたり中途半端だとよくツッコまれはするのだがそれはそれ、みんなで集まってワイワイするのが目的だから全く問題ないと思っている。そもそも、オカルトが好きであることと、信じているかどうかは別問題なのだ。何も小鳥は、本気で“素人が儀式をして狐の霊を呼べる”なんてことを信じているわけではない。もしかしたら誰かが十円玉を動かしてるなんてこともあるかもなーくらいのことは思っている。まあ小鳥は動かしていないのだが、イタズラ好きの千穂ならやりそうではあった。美紅は微妙だが、極端にびびりな彼女が意趣返しを考えないかというと、その可能性もゼロではないわけで。  自分達がやることは単純明快。毎回小鳥が儀式の準備をする。委員会や補習や、他の部を掛け持ちをしている残り二人が来るのを待ち(そうでない場合は準備を手伝って貰うこともある)、三人揃ったところでこっくりさん開始、だ。勿論部活動があるので毎日開催というわけにはいかないが、部がない日はほぼ必ずといっていいほどこうして集まっているのである。
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