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『最初は、憧れでした。背が高くてちょっとマッチョで、スポーツ万能な千穂は……私にないものばかりを持っていて、本当に羨ましくて。漫画の中で想像した、私が一番なりたいヒーローに一番近いのが千穂でした。彼女みたいになりたい。なれないならせめて側にいたい。最初は本当に、それだけのはずだったのです』
いつからかなんて、わかりません。
彼女は誰もいなくなった教室で――門倉だけに、その苦しい胸のうちを明かしてくれたのだった。
『気がついたら、好きでした。そして、千穂が笑顔を向ける全部に嫉妬するようになっていたんです。私が知らない千穂がいるのが嫌になってた。千穂の全部を、私が知っていたかった。大好きな友達なのに、小鳥のことさえ邪魔だと思うようになってた。……それだけじゃないんです。私、私もう、夢の中で……エッチな夢まで見るようになっちゃったんです。裸の千穂を想像して、千穂のことを……そんな自分が嫌で嫌で嫌で!どうすればいいかわからなくて!!』
松尾美紅は――幼い頃にはもう、自分の好意の対象が多数派でないことに気づいたそうだ。
幼稚園の頃の初恋の人は、保育士の女の先生だった。彼女にお花をあげて、“いつかみくのおよめさんになってください!”とお願いしたことがあるという。そこで先生に“みくちゃん、みくちゃんは女の子だから、先生と結婚はできないのよ”と諭されたのだという。そうして初めて、美紅は自分の趣向が人と大きく異なることを知ったのだそうだ。
『同性愛って言葉は、小学生の時にはもう知ってました。私は、自分がおかしいって思われるのかまずっと怖かったんです。目立つのが嫌いでした。みんなと歩幅を合わせて生きている方がずっと楽だと知っていたした。だから、こんなことで目立つなんて考えただけで恐ろしくて……私は少しでも普通の女の子に見えるように必死だったんです。女の子らしい髪型をして、女の子らしい服ばかり着て、おしとやかな自分を演じればきっとバレないと思いました。……問題は、そんなことで解決できるはずもなかったのに』
美紅はどこか、不自然なほど作ったような――女言葉を喋る傾向にあった。
それは彼女が必死で作ったかりそめの姿だったのだ。本当の彼女はもっとユニセックスな服も着たいし、格好いい話し方や男の子がするような遊びもしたいと考える――そんな少女だったのである。
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