<最終話>

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 松尾美紅と秋田千穂は、本当は正反対などではなかった。彼らはむしろ、似た者同士だからこそ惹かれ合い、友情を結んできたのである。気がついていたのは美紅の方だけだったのだろうが。 『堂々と突き進む千穂はかっこよくて……一緒にいればいるほど好きになりました。そして好きになればなるほど、私は醜い嫉妬ばかりを感じる自分が嫌で嫌でたまらなくなったんです』 『そんなことはないだろう。好きな相手を独占したいと思うのは誰だってあることだし、恋愛に限ったことでもない。当たり前の感情だと思うぞ』 『いいえ。……いいえ。私は、ダメだったんです。やっちゃいけないことを、やってしまったんだから』  それは、懺悔。  松尾美紅という少女の――担任である門倉にしか話せなかった、悲しい真実。 『秋田千穂はレズビアンで、松尾美紅と付き合っている。……あの噂を流したの、私なんです。噂になるのわかってて、学校の裏サイトに書き込んだんです。……千穂がそれで、苦しむのがわかっていながら!』 ――どうして、こんなことになっちまったんだろうな。  門倉は項垂れる他ない。  三人が放課後に何をやっていたのか、門倉は知っている。だって教室に居残っているのを発見して何度も注意をしたのだから。  こっくりさんの名前を借りた――三人だけの、秘密の遊び。  面白い質問を投げ合い、解答を演じあうだけの――ささやかで平凡な、彼女たちだけの時間。彼女たちだけの放課後。どうしてそんな、ちっぽけな幸せさえも続くことがなかったのだろう。本当の意味で、悪い者など誰もいなかったというのに。 ――強いて言うなら。そんな相談を受けておきながら何もしてやれなかった……私が一番、罪深いか。  もし、あの時――自分が悩める少女に、なにかを言ってやることができていたなら。当たり障りの慰めではなく、彼女の心を本当の意味で掬いあげてやることができたなら。こんなことにはならなかったのだろうか。  自分は教師の癖に本当に無力だ。美紅は友人達を恨んでなどいない。そんな子ではない。愛情と嫉妬と独占欲で揺れながら、それでも彼女が悩んでいたのは――二人の友人が、何よりも大切であったからに他ならないのに。
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