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 静かに滑り出した車は、そのまま朝の通勤ラッシュに合流した。ゆっくりと進み、すぐに信号に引っかかる。車内は、暖かい空気とFMラジオの小さな音、缶コーヒーの薄っすらとした匂いに満ちていた。シートの柔らかさも角度も最適。それぞれが生み出す相乗効果が、慧斗に奇妙な安心感を与えていて、否応なく助手席派を自覚させられるのだった。 「去年より降ってるよな、雪」 「あ……うん」  誰に言うともないトーンの呟きに、物思いから引き戻される。 「それ、収穫?」  膝に乗せたビニール袋の中には、帰り際に買った煙草の他に、昨夜から今朝にかけてもらった品が数点入っている。収穫と言うほど誇れる内容ではないと、慧斗は笑った。 「主に、うちの姉さん達から」 「主にって、ひっかかるなあ」 「……あと、女子高生とか」 「お」 「つーか、深夜から明け方って、そういう仕事のお客も多いから……ノリで」 「モテてんじゃん」  乾は少し遠くを見るような顔をして、それから、こちらに目線を向けた。 「あ。そういや、俺からもあげたしね」 「……え?ああ、空港土産?」 「そうそう」  帰国間際に空港の免税店で慌てて買ったので、イギリス土産ではなく空港土産らしい。甘い物は少しでじゅうぶんな慧斗は、個包装の一つをもらっただけだが、ドライフルーツが入ったミルクチョコは決して不味くはなかった。 「で、俺には?くれないの?」 「欲しいの?」 「そりゃ、男子なら欲しいでしょう」 「そうなんだ……」 「間違えた。好きな子からなら、欲しいでしょ」 「……ああ、そっか」 「あれ、揶揄ったつもりだったんだが」     
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