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頬杖を突いた乾の、あっさり取り澄ました横顔を盗み見る。はぐらかすように少し目蓋を落とした表情は、彼によく見られるものではある。それでもさっきから連発されている欠伸が、単なるお得意の表情というだけではないのだと、慧斗に教えてくれていた。
金曜の夜。もうすぐ日付も変わる。今夜はシフトに入っていないから、いつまでここでこうしていても構わないんだけど。
――突然立ち上がった慧斗を、大げさな動作で乾が見上げた。
「煙草……」
短く発したその言葉は、相手を深く頷かせるだけの力を持っている。慧斗はガラス戸を開け、灰皿片手に真っ暗なベランダに出た。部屋中に喫煙許可を下ろている自分と違い、換気扇の下かベランダが、乾の部屋の喫煙場所なのだ。自分にとって換気扇の下はあまりに味気なく、選択肢はないに等しかった。二月の初め、冬はまだまだ居座っている。痛いくらい冷たい空気に、白い息が広がった。
ああ、どうりで妙に静かだと思った。
いつの間にか雨音が消え、みぞれ混じりの雪が降っていたらしい。ベランダの向こうに目を凝らすと、大粒の雪が、カーテンの隙間から漏れる光に照らされては沈んでいる。咥え煙草に火を点ける前に、一度ガラス戸を開け、報告だけでもすることにした。
「雪になってる」
「あ、マジ?」
乾は仰け反るように振り返り、暗闇の中から捜し出すように目を眇めた。
「ここんとこ、よく降るよなぁ」
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