273人が本棚に入れています
本棚に追加
/33ページ
帰りはもう少し楽をしたいというのが、動機の一つ。もう一つの動機が、タクシーという無粋な選択肢を除外させた。駅まで迎えに来てもらう、っていうシチュエーションがカップルらしくていいんだって。憶測じゃなく、本人談。
もし起きていたら、とか、もし時間が合えば、とか、もし気が向いたら、とか前置きがあったと思う。だけど、渡された車のスペアキーは、慧斗があの青い車で乾を駅まで迎えに行くことだけを可能にしているのだ。
『無理しなくていいんだぜ?』
繰り返さなくても通じてます、と心の中で返事をする。含み笑いの顔がぼんやりと浮かんで、見えないその顔に向かって慧斗は首を振った。
「つーか、俺が無事に着けば、だよ」
『おいおい、怖いこと言うなって』
「うん……西口で待ってます」
『頼りにしてます。じゃあ、切るね』
ホームはずいぶんざわついていたのかもしれない。電話が終わり、再び静かな部屋に一人になると、そのギャップを感じる。
気まずい、少なくとも慧斗にはそう思える別れ方をして、思いつきみたいな口約束なんか反故になるだろうと思っていた。しかしどこかで期待する気持ちもあって、午後早くから起きていられるように、帰宅してすぐ寝てみたりしてた。携帯の充電だってしてたし。マナーモードのままだったけど、ちゃんと通じだだろう?
ベッドから降りて、テーブルのキーケースを取り上げる。
最初のコメントを投稿しよう!