3

4/10
274人が本棚に入れています
本棚に追加
/33ページ
 カバーを開くと左から順に、原付の鍵、アパートの鍵、乾の部屋の鍵、そして車のスペアキーが並んでいる。六連の金具のうち四つが使用中。達成率を競うアイテムではないとわかっていても、決して悪い気分ではないのだから、自分で思っているよりありふれた感性の持ち主なのかもしれない。  原付で乾のマンションまで行き、そこで乗り換える。  アクリルのブルーが、寒い冬、曇天の素っ気ない景色によく映えている。ドアを開いて、普段座ることのない運転席側のシートに収まる。車を運転する機会は、大胆に平均しても年に数えるほどしかなく、最後はいつだったっけと考えてもすぐには思い出せない。エンジンのかけ方を忘れていたら笑えるな、とか考えながらキーを回し、ミラーを見上げる。アクセルを踏んだ瞬間、4WDの力強さに驚いたりはしたけど。  巨大な繁華街とオフィス街を擁する東口に比べれば、西口はシンプルに機能している。ロータリーに沿って徐行し、西口一面を見渡せる位置で車を停めた。時計は、予定時刻の数分前を示している。フロントガラス越しに、周囲より多少背が高くて、颯爽とした大股の、スーツケースを携えた男を捜す。雑多な視覚情報に過敏でいなければならなかったのは、それほど長い時間ではなかったと思う。ただ、見当をつけては外れるという経験を繰り返すには、じゅうぶんな時間だった。  ――あ。  頭一つ高い、ダークグレーのコートを着た、いかにも出張帰りのサラリーマン。     
/33ページ

最初のコメントを投稿しよう!