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 言葉尻に、カチ、カチ、ウィンカーの音が重なる。赤信号と乾の返事を待つ間の、カウントダウンの音。 「いや。謝るのは俺のほうでしょう」  きっぱりしたトーンだった。 「どうにも余裕なくてさ、言い訳にもならんけど。つーか、言い訳できることなんてないよな。正直、帰るって言ったきみを強引に引き止めても、その先の責任を果たせる自信はなかった」  淡々とした、しかし言い含めるような力強さのある口調が、最後ため息でかすれる。続く言葉が「ごめん」なら、慧斗はそれを遮らなければならない。 「わかるよ。それくらい、俺だって」  制するように言った自分の横顔は、今、彼に見られているだろうか。その先言うべきことを探しあぐねて、慧斗はじれったい気分でアクセルを踏んだ。二見の理論を借りるなら、そう、天秤。自立した社会人の両天秤が、やるべき仕事に傾いたとしても、悪いことなんか何もない。慧斗に優しくするのは、天秤がこっち側に傾いている時でいい。気持ちの仕組みってそういうものだと思う。それをわかっていても、もやもやを上手く隠せなかったりすることも含めて乾が責任なんて負う必要ない、もちろん、義務もないのだ。     
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