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「……偉いのは電子レンジだよ、それ」 「お、抵抗するなあ」 「乾さんが変なこと言うから……」 「変じゃないって、ほんとのこと」  変、がどの部分に係るのか、ちゃんと通じているだろうか。乾は喉の奥で笑いながら、慧斗の髪を軽く撫でるだけだ。表面を滑った手のひらが、耳をくすぐり、頬を擦る――甘やかされたことはあっても、甘えてもらった憶えなんか、どこにもないのに。 「中村くん、ハンドル戻すのがちょっと遅いんだな」  告げられたのは、熱くなった頬への揶揄ではなく、運転技術の評価だった。  十分足らずの短いドライブが終わった。乾の後姿を下から追いかけるようにして、マンションの階段を上る。ドアの鍵は、慧斗がキーケースから探し出すほうが早い。住人の一週間の不在を、もともとシンプルなワンルームは、平然と耐えていたような雰囲気だった。  乾がスーツケースに替えて慧斗の手を握り、引っ張る。 「帰るなんて言わないように」 「……うん」  慧斗はベッドの縁に腰掛けて、背広を脱ぎ、ネクタイを外し、水道の蛇口を捻って手を洗い、その手で水をすくってうがいを済ませるまでの、乾の一連の動作を眺めていた。 「こっち、天気どうだった?」 「ん、ずっとこんな感じ。曇ってて、寒かった」     
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