273人が本棚に入れています
本棚に追加
/33ページ
素直に納得する慧斗に、あてが外れたよう。乾の、些細だが性質の悪い所だと思う。名指しされているのと同じことだと気づかなかった自分も、鈍感だけど。今さら照れようとする身体から抗うように、慧斗は前髪を引っ張った。
「じゃなくて。ほんとはちょっと困ってて。指輪とか、俺、してんのになって思ったんだけど」
「してない時も多いからじゃない?」
「そ……」
「いやごめん、続けてください」
「いいですよ別に……もう」
「ごめんごめん、口挟まないから。ちゃんと聞くよ」
左手の薬指が、今日は空いているのは確かだ。在り処はわかっている。ネックレスのチェーンに通すのが気に入って、最近は首からかけていたところ、今日はそのネックレスをし忘れたという真相。昨日までしてたのに、なんて威張ったって仕方ない。肝心な時にし忘れない乾のような人からしたら、大差ないのだろうし。
慧斗は左手の甲を擦りながら、もごもごと口の中で言った。
「俺はひとのものですけど、恋愛って、そういうもんだったなあって……思った、だけです」
「うーん。深い話になったな、なんか」
くぐもった声、笑ってる。
「忘れてください」
急激に恥ずかしくなって、ごまかせる勝算もなくFMラジオの局番を変えた。パーソナリティーのフリートークに代わって流れてきたのは、流行りのJ-POPだ。
最初のコメントを投稿しよう!