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失言に気づき、慧斗は焦った。違います、たったそれだけの言い訳も、口の中で半分消えてしまう。
サービストークがなくても、キス一回でも構わない。疲れた乾を非難するつもりなんてなかったし、彼の疲労が理由で今夜が平凡以下に終わることへの失望をアピールするつもりもない。理解しているから。ゆっくり休んでほしいと、言いたかったのはそのことだったはずなのに。
言い方を間違えたんだ。
これじゃあまるで、忙しい恋人を気遣いもせず拗ねている身勝手なやつ、ではないか。
「ごめんな」
黙り込んだ慧斗の顔を、乾が覗き込む。
「そんな……全然」
頭の中の混乱とは裏腹に、乾を謝罪させているのは自分だ。どんなつもりがあってもなくても、彼を謝罪させている、その現実は変わらない。
「もう少し待ってて。出張から帰れば、かなり落ち着くから。な?」
あやすような口調に彼をさせるほど、自分は頑なな顔をしているのだろうか。肩に置かれた手は、ごくさりげない力加減だけど、その一点で全身を支えられているような感覚を慧斗に与える。それが妙に居たたまれなくて、肩を揺すって逃れた。
「帰ります……あの」
「雪降って来たから?」
「うん……」
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