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 携帯電話を持って出るのを忘れたことに気づいた時には、既にユニフォームに着替えてレジを打っていた。朝になって部屋に戻ると、不携帯だった携帯電話はその上電源切れで、冷たい鉄の塊となってベッドの端に放置されていた。  充電器に繋ぐとすぐ、ランプが点灯する。復活した通信機器が教えてくれたのは、不在着信一件と、留守電メッセージ一件、それにメール一通の存在だった。留守電メッセージとメールは似たような内容で、今から行ってくる、帰ったらまた連絡する、というようなもの。持ち歩くことと、充電すること、この二つは携帯電話に関する最も重要な基本事項だろう。そのどちらをも忘れるのはいつものことだが、下手な言い訳よりお粗末な現実が、その朝の自分にとってはいつもより深刻だった。  間に合うかもしれないとかけ直してみたものの、同情のかけらもないような音声ガイダンスが流れてくるだけ。結局、話さないまま乾は出張してしまったのだ。  気をつけて、と、あの時言えただけマシだったな。  そう思うことにしよう、と思っても、あまり慰めにはならなかった。     
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