後編

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 新太のクセにそんな顔をして、そんなこといっちゃうなんて。驚きすぎて不覚にもじんってしちゃったじゃん。涙まで出そうになったから慌てて前をむく。  隣で少し笑う気配がした。俺の髪の毛をぐしゃぐしゃっとかき混ぜてきたから、やめろよって照れ隠しに口を尖らせる。 「そういえばさ、結ちゃんもおもしろいコだよな。あの堂々としたヤジの入れっぷりに思わずふいたなあ。彼女の勢いに一瞬場の空気、呑まれたし。S女のイメージが変わるくらいインパクトあった」  新太が思い出したように笑った。話題が変わってちょっとほっとして俺も頷く。 「あー、俺もびっくりした。でもあのヤジのおかげで勢いがついて助かったし」  確かに最初に感じたイメージとは違うからびっくりはしたけれど、俺は結ちゃんみたいな元気な女の子キライじゃない。むしろ最初の印象よりもっと好きになったくらい。  いざという時はっきりモノを言ってくれるコの方が俺にはシックリくる。おとなしい子だと、俺がひたすらしゃべっている間に愛想つかされて気づかないうちにフラれそうな気がするし。結ちゃんならきっとそんなすれ違いは起きない。新太はちらりと俺を見て楽しげに呟いた。 「あのコ、お前の濃いキャラにも負けないな。っていうかお前が負けるかもよ?」 「へ?」  ちょうどその時部室のドアをノックする音が響いた。はーいと声をかけるとさくらさんがドアをあけてひょこっと顔を出した。 「二人ともお疲れ様。さすが兄弟、息がぴったりだったし聡太くんの司会もとっても上手だったよ」  そういって誉めてくれたけどなんだかさくらさんがちょっと疲れてるような?   「さくらさん、大丈夫?」  そう尋ねると力なく笑った。 「私は身の置き場がなかった……」  大きなため息をついたさくらさん。そりゃいきなり自分の話題がでてきて槍玉にあげられるわ、後輩が横でヤジいれるわ、新太に公衆の面前で堂々とノロケられるわ、どっと疲れるよなあ。
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