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「キャ、言っちゃった」と言わんばかりに赤らめた顔を掌で隠す彼女は可愛いことこの上ないのだけれど、僕は今、箱の中に入っている彼女の心臓――もちろん、模型である――を手渡された意味を計りかねている。
一方で、教室内では、悲愴な叫び声が響いている。まるで、生々しい色合いをした心臓を鷲掴みにしている僕が殺人鬼みたいに見えるではないか。しかし、前方の彼女はもじもじと指先をこすり合わせながら、リンゴのように赤く染めた頬のまま、
「私、ね……皆に、心臓に毛が生えてるって褒められるの。だからね、私の自慢の心臓を、君に渡したかったの。私の、何よりも大切なものよ。それがないと、私は生きていけないからね、大切にしてくれる?」
ああ、なるほどと思う。ポジティブな彼女らしい発想だ。
「分かった。大切にする」
そう言って、鷲掴みにした心臓にキスを落とす僕の心臓にも、なかなかの剛毛が生えているような気がしたのであった。
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