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 放課後、部活を終えた優斗は真っ暗になってから帰ってきた。  バスを降りて、傘を差す。大通りから町の方に入ると道はアスファルトで覆われていた。  朝とは異なり、人の足跡だらけの道を優斗は歩いた。冷たい白い息を吐き出しながら歩いた。  美優の家の前へと差し掛かった。優斗の家はこの先だ。  優斗は、美優の家の前に人影を見つけた。  傘は一つだったが、人影は二つだった。  折り重なるようにしている影の一つは美優であることが優斗にはわかった。  キスをしている。  それがわかった瞬間、優斗は指先が冷えるような感覚に陥った。胸の鼓動も早くなり、息苦しくなった。    やがて二つの人影は離れると、美優ではない影は、美優に手を振り、大通りのほうへと歩きはじめた。  通りの角で身を潜めるようにしていた優斗は、雪の中で傘を差しながら見送る美優を見ていた。  寒い中で外にいるのは嫌なんじゃなかったのか…、そんなことを考えていると、美優が優斗に気がついた。 「あれ?優斗?ヤダ!まさか見られちゃった!?」  駆け寄って来た美優は優斗の肩を叩く。 「超恥ずかしいんだけどー!絶対、他の人には言わないでよねー」  恥ずかしさを隠すかのように、美優は何度も何度も優斗の肩を叩いた。 「同じ高校の彼氏なんだけどね、今日は雪がひどいからってウチまで送ってくれたんだー。まぁ、チョコが欲しかっただけかもなんだけどー」  一方的に話す美優に、優斗はただ愛想笑いを浮かべることしかできなかった。  こんな風に笑う美優を優斗は見たことがなかった。  朝の会話を思い出し、都会なら雪で学校は休みだから、こんな光景は見ないで済んだのにな優斗は思った。  優斗は、頬についた雪を右手で拭った。  雪は右手の中ですぐに溶けて消えてしまった。
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