プロローグ

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 田島邦彦の顔や頭の大部分は包帯で覆われいた。固く閉じられた目には、曽野八千代の顔は映らない。右目は青黒く膨れ上がり、包帯の上に黒髪が一筋、流れていた。  内臓破損に対して緊急手術を施したこと。その手術が何時間もかかる大きなものだったこと。左膝も重傷を負っていること……。病院に駆けつけた八千代に看護婦はまず、そう説明してくれた。  八千代は静かにベッドに近づく。眠っているのは薬のせいだと聞かされていたが、邦彦は何の反応も示さない。身じろぎ一つせず、息さえもしていないかのようだ。  ……もしこの人が死んでしまったら?  八千代は身震いする。二人にはすでに何のつながりもないし、これからも人生が交差することもないだろう。だとしても、彼のいない世界など八千代には考えられなかった。
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