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休日、八千代は近所のスーパーにいた。そこで幼い男の子を連れた主婦を目にする。
「これ、買って!!」
男の子は言うことを聞いてくれない母親に対して憤怒で顔を赤く染め、狂ったように泣きわめいている。
……あんな生活はしたくないわ。
八千代は顔をしかめる。決して幸せとは言えない子供時代を過ごした八千代は結婚も子育てもまっとうにできないのではないかと思っていた。
確かに35歳の目前にして、大体の同級生が自分の場所を見つけて、安定した生活をしている。新婚の仁保を始め、ほとんどの人が結婚し、子供のいる人もいる。八千代は特に結婚している女性が羨ましいわけではなかったが、なぜか時々、自分だけが取り残されていくような寂しさを覚えた。
しかし子供がいれば幸せという図式は必ずしもイコールではなく、不登校や引きこもり、素行の悪さに悩んで燃え尽きてしまう親もいれば、せっかく授かった我が子を虐待したり、ひどい場合は殺してしまうことだってある。
八千代は特に子供が欲しいわけではなかったし、仁保が夫と相談し、病気に縛られて長い年月を浪費してしまうよりは、手術することによって二人で楽しい時を重ねていくことを決心したことも、理解できるような気がした。
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