突然の病気

11/11
前へ
/108ページ
次へ
 タクシーが病院前の車寄せに入って、正面玄関近くに止まる。八千代は急いで車から降りて、玄関に走っていく。仁保のことを思うとたまらなく切なく、涙ぐみそうになる。  森行からの電話で、仁保はお腹の激痛で倒れ、救急車で運ばれたことを知った。すぐに手術が行われたそうだ。取り出された子宮は肥大化し、お腹は膨れ上がっていたという。  八千代は病院に入ると、受付で部屋番号を聞き、壁に貼ってある院内地図で場所を確認する。院内はあまりに静かで足音を立てるのも憚られ、八千代は足音を忍ばせて歩いた。そっと仁保のいる部屋に近づいていく。  廊下の一番端の部屋からドアを開けて出てきた男性がいた。森行だ。彼はすぐに八千代に気づき、スリッパの音を響かせて歩いてきた。 「八千代さん、急に電話して申し訳なかったね。来てくれて、ありがとう」 彼の顔には徒労がにじんでいた。 「森行さん、仁保は大丈夫ですか?」 八千代は切なさがこみ上げて、声に詰まってしまった。 「大丈夫。手術は無事に終わって、今は眠っています」 八千代は安堵のため息をついた。  突然の激痛、急な手術。仁保はどれだけ辛かったことだろう。八千代の目には涙が浮かんできた。  部屋に入ると、ベッドの上の仁保は静かに眠っていた。 「仁保……」 八千代は仁保の頬を撫でた。
/108ページ

最初のコメントを投稿しよう!

7人が本棚に入れています
本棚に追加