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タクシーが病院前の車寄せに入って、正面玄関近くに止まる。八千代は急いで車から降りて、玄関に走っていく。仁保のことを思うとたまらなく切なく、涙ぐみそうになる。
森行からの電話で、仁保はお腹の激痛で倒れ、救急車で運ばれたことを知った。すぐに手術が行われたそうだ。取り出された子宮は肥大化し、お腹は膨れ上がっていたという。
八千代は病院に入ると、受付で部屋番号を聞き、壁に貼ってある院内地図で場所を確認する。院内はあまりに静かで足音を立てるのも憚られ、八千代は足音を忍ばせて歩いた。そっと仁保のいる部屋に近づいていく。
廊下の一番端の部屋からドアを開けて出てきた男性がいた。森行だ。彼はすぐに八千代に気づき、スリッパの音を響かせて歩いてきた。
「八千代さん、急に電話して申し訳なかったね。来てくれて、ありがとう」
彼の顔には徒労がにじんでいた。
「森行さん、仁保は大丈夫ですか?」
八千代は切なさがこみ上げて、声に詰まってしまった。
「大丈夫。手術は無事に終わって、今は眠っています」
八千代は安堵のため息をついた。
突然の激痛、急な手術。仁保はどれだけ辛かったことだろう。八千代の目には涙が浮かんできた。
部屋に入ると、ベッドの上の仁保は静かに眠っていた。
「仁保……」
八千代は仁保の頬を撫でた。
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