プロローグ

4/4
7人が本棚に入れています
本棚に追加
/108ページ
「田島邦彦さんですが、正直申し上げて状態はかなり深刻です。ひどい事故でしたし、発見も遅れ、時間もかなり経過していて……。怪我だけでなく、大量の出血と外気にさらされた影響も心配です。この三日間がヤマでしょう。奥さんも大変かと思いますが、ただ待つ以外、どうしようもありません」 診察室に入ると、早速医師にそう説明された。八千代は首を振る。 「いいえ、私は邦彦さんの奥さんではありません」 意外な言葉を投げかけられ、医師は二の句を失っているようだ。 「と、言いますと?」 「別れた恋人なんです。今は何の関係もありません。ただ彼の手帳のアドレス欄に私の名前があったらしく、連絡があったのです」  思考がぐるぐると八千代の頭の中を回った。空調の利いた診察室で八千代はぼんやりと窓の外を眺めた。カーテンのすき間から見える空には遠くに雲が流れていた。
/108ページ

最初のコメントを投稿しよう!