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邦彦の言葉で咄嗟に嫌な考えが脳裏をかすめる。目の前に以前見た光景が蘇る。
邦彦とレストランで夕食を済ませ、コーヒーを飲んでいる時に、幼馴染の親友がちょうど何人かとレストランに入ってきた。邦彦に親友を紹介すると、彼は虚を衝かれたような表情を見せ、何度も瞬きをした。一方、親友の方は食い入るように見つめる邦彦にきょとんとした顔をしていた。
不意に全てが理解できたような気がした。あれから邦彦は親友のことを聞き、親友を目で追うようになった。
「仁保なのね?」
胸が押しつぶされそうになりながら、八千代は自嘲気味に笑った。邦彦の沈黙が図星であることを示していた。深い沈黙だった。地の果てにいるようだった。
「八千代、俺は……」
邦彦の言葉を遮り、八千代は言い放つ。
「いいんじゃない。二人ともお似合いよ」
八千代は腰を上げて、店から出た。
一瞬、目の前がぐらぐら回るような錯覚を起こした。八千代は歯を食いしばったが、嗚咽が漏れて止まらなかった。
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