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夜遅く、八千代のスマホにかかってきた電話は、病院からで邦彦の交通事故を知らせるものだった。身元のわからないケガ人のカバンに入っていた手帳の一番上の欄に八千代のナンバーが書かれていたそうだ。
「町子店長、申し訳ないですが、千保子をお願いします」
事故の知らせを聞いて驚く町子に子供を預け、八千代はタクシーに飛び乗った。
病室に入ると、傷つき、すっかり血の気を失った邦彦がいた。長い間、八千代は邦彦のことを憎んでいるとばかり信じ込んでいた。でもこうして蒼白な邦彦の顔を見つめると、昔、愛し合っていた時のことを思い出す。心底憎いと思った時でさえ、その心の深いところでは邦彦のことを心配してきたのだ。
後から、話を聞いた仁保も来てくれた。
「かなりの重傷でこの三日間がヤマ……」
八千代は医師から聞いてきたばかりの言葉を呟いた。この人はこのまま亡くなってしまうのだろうかと思うと、身震いした。
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