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次の日の明け方、医師が必死に手を尽くしたのにもかかわらず、田島邦彦は生涯を閉じた。
「こんなことになるなんて……」
八千代が涙を流すと、仁保が黙って肩を抱いた。八千代の涙が仁保の肩を濡らす。
「八千代、思い切り泣いて。それで少しでも悲しみが癒されるなら」
仁保は八千代をきつく抱きしめた。
痛いほどの悲しみに貫かれ、八千代の顔は血の気を失っていた。
邦彦から別れを告げられた時は、彼が自分の元から去っていくことを受け入れるしかなかった。でもこの世から完全にいなくなってしまうなんて思ってもみなかった。いくら憎んでも、遠い思い出も遠い記憶も決して消えることはなかったのだ。
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