2、バースデイ

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「でも彼にとっては、とてつもなく最高に幸せな思春期だね」  須美がヒューゴとのキスを思い、心の中で誓いをたてなおしていると、まるでそれを見透かしたように、せんせいは言った。 「ほら、ただでさえ十代なんてへヴィな時代じゃない? 異性愛の子でも自分の性的なものに向き合わなければいけないのに、さらに男に恋しちゃう、なんてオプションついてるんだから、重いよね。それがスミ君みたいな美しい年上の人が、会ってデートしてくれて恋人として振る舞ってくれるわけでしょ? 彼は無敵だね」  両性愛者であるせんせいも、何か思うところがあるのだろう。しみじみとした言い方だった。その言わんとしていることは、須美にも痛いほどわかる。  誰にも本当のことを言えなかったあの暗黒の時代。恋人をもつなんて夢のまた夢で、そんな贅沢望まないから、ただ自分を肯定してくれる人が一人でもいたら。それだけを願っていた。  それを思うと、こんな自分でも少しはヒューゴに役立っていると思えた。それを言おうとするが、せんせいはもう寝息をたて始めている。毛布をもってきて、せんせいの上にかける。頭の下に枕をいれてやる。  須美の部屋を訪れるせんせいは、いつも上機嫌で陽気で、優しくて、自分が楽しむというよりも、須美を感じさせることに重点をおいた愛し方をする。性的に敗北する須美を見るのが最高に感じると、せんせいは言う。  仕事においても、常に出力最大のパワープレイで、スケジュールは再来年までびっしり埋まっている。遊びにも余念がない。  せんせいが弱っているところなど想像できない。でもきっとそれは須美に見せていないだけで、そんな一面もきっとある。奥さんにはそんな姿を見せたりするのだろうか。  ヒューゴはというと、相変わらず栄光の人生を突っ走っている。  文武両道を掲げる都内屈指の名門私立中に進学した現在、上位のものしか在籍できない特待クラスにいながら、部活にも励んでいる。学校以外の社会活動まで手を広げ、何事にも積極的で、自分の能力を楽しんでいるようにもみえた。そんなヒューゴが本気で愚痴や弱音を吐く姿を、須美は見たことがない。
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