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初夏の公園は、久しぶりの晴天だ。梅雨明けの解放感を楽しむ人々で今日はいつにもまして人が多い。
広場にいるヒューゴに手を振って、ジェスチャーで売店に寄るね、と合図した。ヒューゴもどうせ食べるだろうと思ってホットドッグを二つ注文する。自動販売機で飲み物を買う。かがんでペットボトルを取りだしながら、思った。
さっきヒューゴはこちらに向かって大きく手を振らなかった。ただわかった、というように微笑んだ。今までだと、人目も気にせず手を振り名前を呼んでくれていたというのに。
肩に、横顔に。腕に、手に。細かったはずの首筋に。背中に。ヒューゴから子どもらしさが徐々に消えつつあった。
そういえば最近声も低くなった気がする。赤いパーカーを着なくなった。その変化は部分だったが全体でもあって、一言では言えないけれど、少年が何か別のものに生まれ変わる途上であることに違いなかった。
同年代と比べ大きい方だよな、高校生って言われても通用するよな、そう思いながら、ヒューゴのもとに向かう。部活と勉強で大変なはずが、中二になった今もヒューゴとの公園デートは続いている。
前のデートで、ヒューゴが言ったこと。
「ずっとずっと前から、何度も、良多を見かけていたんだ。ぶつかってこっちを振り返ってくれた日、奇跡が起こったって思った」
それは以前にも聞いていた話だったが、ささやく声が、これまでの背伸びした大人っぽさがなくとても自然だった。ヒューゴは今後自分を(または誰かを)こんな風に口説いていくのだと思うと、須美は不思議な焦りを感じた。
停滞しているような自分に対し、相手はどんどんこちらを侵犯してくる。縮まるはずのない距離を無視し、容赦なく踏み越えてきそうな感じが、少し怖い。
「ごめん、全然記憶にないな」
「良多、歩いている時、いつも下向いてるか、まっすぐ前向いてるかだったからね。無理ないよ」
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