1、デート

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 須美は毎回、ヒューゴを見つけることができると心からほっとする。ヒューゴの携帯には、登録された番号からしか通話もメールもできない。連絡がとれて当然の今の世の中で、そんな相手と待ち合わせをするのは、とても不確かで、不安なことだった。出会えることが奇跡のように感じる。  ヒューゴがこちらに気づいた。ヘッドフォンをはずして首にかける。立ち上がって大きく手を振る。 「良多、うわあ」 「へへ、どう」 「大人みたい」 「大人です」 「そうだった」  ヒューゴは「思ったとおりかっこいい」とつけたすように言ったので、「棒読み!」と須美は笑った。ヒューゴの隣に座った。 「どうしたのこれ」  ヒューゴの足元の大きな紙袋について尋ねる。 「俺も持ってきたんだ」 「え、なになに?」  ヒューゴが中から取り出したのは、使いこまれた黒いランドセルだった。近くにある国立大学の付属小学校のものだ。その背中に刻印された金色の校章は、受験を勝ち抜いたエリートのあかしだった。 「え、今日学校だったの?」 「ううん、春休み」 「だよね」 「実は、今まで良多に死んでも見られたくなかったんだ。でももう来月から俺は小学生じゃなくなるから、いまいましいこいつともお別れ。だから最後に見せてもいいかな、って」  そう言うとヒューゴはそれを背中にしょった。ちゃんとしまってなくて、金具がガチャガチャいっている。確かに象徴的なそれを身に着けると、大人びた少年も一気に小学生になった。 「おー」 「まあこんな感じだったわけ」  ヒューゴはそのまま須美の前に立って、自分の頭のてっぺんに手をかざし、須美と自分の身長差を示す。ヒューゴの背は小学六年生男子の平均くらい。160と少ししかない小柄な須美の、それでも首あたりだった。 「俺は小学生で良多は二十三歳。今日の俺の身長がこのへん」 「うん」 「へへ、うちの家系でかいから、すぐ良多なんか追い越すからね」 「強気」 「強気というより本気だし、絶対そうなる」  言いながらヒューゴがさりげなく、しかし急に須美の手をとったので、須美は思わずヒューゴの目をまじまじと見てしまった。
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