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まとまった給与というのは、収入が不安定な組織にとって実に有り難いものである。
「この金額が私の評価らしいですが、どれほどのものか分かりません。いかが思われますか?」
「ぅうーん。悪くはない。だが、もっと頑張る余地はある、かなッ!」
「そうですか。具体的にはどの程度まで評価されれば……」
「出発するぞ、ベルト締めろ!」
メルは言葉を遮るようにして車を急発進させた。
というのも、彼女もまた世間知らずであり、まともに働きに出た経験は1度として無い。
なので、いくら貰えば上々かなどは知りようがないのだ。
最低限として、上司の沽券を守るためにもボロを出すわけにはいかなかった。
時刻は6時前。
そこそこの渋滞に巻き込まれたメルは、ハンドルに苛立ちを叩きつけた。
体を揺らして前方を確認したり、対向車線のスムーズさに恨みがましい視線を送ったりと、落ち着きを見せない。
だがその時、微かな異変に気付く。
ーーフォグルが、笑っている?
助手席に座る彼は、車窓から外の景色を眺めている所だった。
そのために横顔の端しか見えないのだが、気配はいつものそれとは大きく異なる。
取り巻いている空気が柔らかいのだ。
「フォグル、お前……」
その顔を振り向かせようとして手を伸ばすも、けたたましいクラクションの音によって遮られた。
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