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寝た心地のしないまま朝になった。睡眠促進にと聞いていた音楽を停止させ、両耳に押し込んでいたイヤホンをそっと抜く。
秒針の音が聞こえる方角へ視線を移せば、時計は午前七時半すぎを指していた。あと数分もしないうちに、母が朝パートへ出かける時間になる。
不思議と目覚めに不満は感じなかったから、二度寝に移らず起きることにした。
素足で下りたフローリングの床が凍った鉄板のように冷たくて、詰め寄る冷気は一晩かけてあたためた体温を一瞬で奪っていくようだった。
刺すような寒さの中、部屋のドアを開けた俺を釘づけにしたのは、曇り空にも明るい銀世界だった。
かの名曲のはしゃぐ犬のように、廊下に連なる掃き出し窓に顔を寄せる。外出の予定がないうちは天気を気にしないから、雪が降るなんて知りもしなかった。朝一番のサプライズに心が浮き立つ。
雪景色を楽しみながら廊下を歩いていると、何やら玄関の方が騒がしかった。聞こえたのは、どこか不穏な母の声と、あともう一人、知らない男の人の声だ。
来客だろうか。それにしては、あまり平和な会話が聞こえてこない。どうしてだろう、母の声から苛立ちを感じるからだろうか。
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