35人が本棚に入れています
本棚に追加
もし客人なのであれば、このまま行くとだらしない寝間着姿をお披露目してしまうことになるから避けたい。しかし、もし時間のかかる話をしているなら、母が仕事に遅刻してしまう。
この場合自分はどうすべきなのか、考えたら答えは一択だった。踵を返して部屋に戻り、適当に服を引っ張りだして、寝間着を脱ぎ捨てそれをまとう。髪を手櫛で軽く整えながら、まだ人の気配がある玄関へと向かった。
そこにはいつも通り、会社指定のエプロンをかけて支度が万全な母がいた。その向かいには、頭から雪をかぶって、この真冬にとんでもない薄着をしている男性がいた。
「――おはよう早いね」
「あ、おはよう……」
こちらを見やった母が怖い目をしていて、俺はひどく驚いて怯えてしまう。
背の高い男性がわずかにこちらを向いた。その気配に気づいて、俺は誘われるように視線をずらす。
その人は不思議な見目形をしていた。まず目についたのは、雪をかぶっていると錯覚してしまった髪。それは雪ではなく、本物の白髪だったこと。
それから、この薄着姿は何なんだろう。さすがに季節外れにも程がある。首元が出ている厚みのない肌着と、サルエルパンツのようなボトムス。
さらに度肝を抜かれたのは、靴や靴下類を何も履いていなかったことだ。足首から野晒し状態になっていて、素足で雪の中を歩いてきたのか、両足とも気の毒なくらい真っ赤になってしまっている。
最初のコメントを投稿しよう!