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一体これはどういう状況なのか、全く見当がつかなくて頭が混乱する。他人には滅多に不機嫌な態度を見せない母が怒り気味の理由も、降雪さえある日の朝に全裸同然の恰好をした男の人が訪ねてきている理由も。
「えと……どうかしたの?」
恐る恐る訳を訊ねると、母はエプロンの紐に括りつけている腕時計を気にしながら、早口に答えてくれた。
「よくわからないけど、この方が自分のことをサスケだって言うの」
「え?」
「それ以外のことは話してくれないし、お帰りの気配もないしなんかすごく薄着だし」
母のイライラが最高潮に達している様子を察知して、急なことだったが俺は一役買うことにした。
「それじゃあ、あとは俺が話聞いておくから、母はもう仕事行って」
「本当?」
「うん」
それに、今朝は雪が積もっているときた。慎重な運転が必要なことや、道路が渋滞している可能性も考慮すると、早めに家を出た方がよい。
「ごめんね、ありがとう」
母は顔に「助かった」と出して、男性の横を会釈しながらすり抜けていく。
「すみません、仕事があるので失礼します」
アスファルトに降り積もった雪をザクザクと踏み進む道中、母は車のロックを電子音と共に解除した。足音が遠くなっていき、俺は男の人と二人になる。
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