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緊張しながら男の人の顔を窺う。目が隠れてしまうくらい前髪が長くて、どんな視線を向けられているのかわからない。
母の話だと、この男性は自分をサスケだと名乗ったと言う。それが本名なのか定かではないが、ウチのサスケとは別のサスケさんという可能性だってあるだろう。タイミングが悪かっただけで、この人が猫のサスケだなんて誰も言っていない。そうだ、先入観は全てを惑わすから良くない。
だが、そんなことより俺の気を急かしたのは、サスケさんの紫色の唇と異常な血色をした肌だった。このままでは死んでしまうんじゃないかと、それはほぼ確信に近いほど。
まず第一優先は、この方の暖を取ることだ。
そう心づいた俺は、ヒーターのある茶の間の方を振り返った。そこには誰の気配もなかったため、目下そちらへ来てもらうことにする。
「あの、今ストーブつけるので。こちらへどうぞ。段差、上がれますか? すみません、ちょっと高さあるんですけど、気をつけて上がって下さい。あっ今タオル持ってきますね」
サスケさんに背を向けてタオルを取りに走りながら、コミュ障かよ、と自分に毒づく。そうだよコミュ障だよ、友達もいねえよ、悪かったな! なんて誰に聞かせるでもない繰り言を心の中で炸裂させた。
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