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翌日、補講を終えて帰宅すると家の玄関が開いていた。全開ではなかったが、猫が一匹通る程度なら十分すぎる幅だ。
ちゃんと閉めないと猫が外に出てしまう。迂闊に開放していられないことはみんな理解しているはずである。それなのにあれは一体何だ。
急いで玄関まで走って、中に入り戸を閉める。
すると、台所から慌ただしく足音を立てて現れた母が、おかえりも言わずにこう叫んだ。
「杏くんごめん、そこ開けたままにしといて。サスケが外に出ちゃってまだ帰ってきてないの」
既に脱走してしまったあとだったらしい。なるほどな、と息をついて、玄関にさっきと同程度の隙間を作る。
玄関の外を浮かない顔で眺める母に、俺は靴を脱ぎながら訊ねた。
「いつの話?」
「お昼過ぎ。すぐに追いかけたんだけど見失っちゃって……そんなに遠くには行ってないはずだと思うんだけど」
母曰く、洗濯物を取り込もうと外に出た時、注意が足りず玄関が少し開いたままになってしまったらしい。気がついた時にはサスケが庭に出ており、家の中に戻ることなく駆け出してしまったのだと言う。
母は心ここにあらずといった様子で、風呂掃除に戻っていった。
その姿を見送って、俺はもう一度庭を振り返る。
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