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俺は、広い庭をぐるっと見て回ることにした。冬だからもう日が傾き始めていたが、まだ明るい今のうちに手を打とうと急ぐ。
屋根の上、石油タンクの下、物置小屋の裏、竹やぶの中、植え込みの陰、縁の下――。敷地内はざっと回ったが、動物の足音一つしない。
猫が隠れやすそうなところをもう少しくまなく捜してみても、枯れ葉や土砂、ガラクタばかりが確認できるだけで、なかなか息吹の気配を掴めなかった。
地面を蹴る足がとまる。
もし、本当に遠くまで行ってしまったとしたら。敷地を出れば、すぐに国道が通っている。国道のとなりには線路だって敷かれている。そこまで行けば、家の裏のドブより深い水路もある。
「……サスケ」
滅多なことがない限り呼ばなかった名前を、今更になって口先に持ちだす。
サスケにとって、俺は「家を往来する、よく見る人間」に過ぎない。特別懐かれていた訳でもないのに、捜索を試みたところで結果はわかっていた。
虚しくなって家の方に戻る。
玄関の戸は、相変わらず開け放たれたままだった。
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