〈第六章〉コンプレックス再び

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〈第六章〉コンプレックス再び

「ひろこさん、大丈夫?」 迎えに来るなり、トオルが言う。 「うち、美雪が熱を出しちゃって・・・・。ひろこさんに移るとアレだから 俺に話を聞くように託されてきました。 今日は時間もあるし、その辺でお茶でもしませんか?」 自分の事しか考えていなかったと、ひろこは恥じた。 「そんな大変な時にごめんね。」 「いいんですよ。行きましょう。」 トオルの提案にひろこは頷いた。 彼は古びたカフェに彼女を連れて行った。 車で少し行ったところに、そのカフェはあった。 大きなマグにたっぷりとカフェオレが注がれている。 音楽もジャジーで落ち着くし、 内装もミッドセンチュリー調でお洒落だった。 ひろこはカフェオレを一口飲むと、 心が解けるのを感じた。 「いい店だね。」 ひろこは言った。 少し落ち着くと、さっきのことを考え始めた。 一枚の絵のように、王子とカナはお似合いだった。 二人はとても楽しそうにしていた。 別れた理由は知らないけど、 もともと恋人同士、いつ復縁してもおかしくは無いと思う。 そもそも、ひろこと付き合ってたほうが夢で、 現実はカナとカップルなんじゃないのか? 「ひろこさん?」 トオルが遠慮がちに口を開いた。 「何が、ありました?」 心配そうな顔をしている。 本当にまじめでイイ子だなとひろこは思った。 「あのね。」 ひろこは重い口を開いた。 「王子と元カノのカナちゃんが、二人でスタバにいたの。」 事実はそれだけだった。なるべく主観を挟まないように言う。 「あの、あいつに限って浮気は無いですよ。」 トオルがきっぱりという。 ひろこは少し悲しくなった。 「うん。それはそうだと思う。 でも“本気”はありえるよね。」 「・・・・・・それは、無いとは言い切れない。」 トオルが口ごもりながら言った。 「それと、王子とカナちゃんがとてもよく似合っていたんだ。 まるで一枚の絵みたいに完璧なカップルだった。」 言いたかったのはこれだ。 ひろこは、額に納まったようにぴったりの二人を見て、 ショックを受けたのだ。 自分とカナの違いを見せ付けられた気分だった。 涙が一粒、そしてまた一粒 瞳から零れ落ちた。 トオルが黙ってポケットティッシュを差し出す。 ひろこが涙をぬぐうのを見ながら、 コーヒーをすすっている。 彼はしばらくしてから、真剣な顔で口を開いた。
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