〈第九章〉待ち伏せその2

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〈第九章〉待ち伏せその2

タカヒトはカナに背中を押され、俄然やる気になっていた。 まずはホテルでの一件を謝ろうと、 ひろこさんの携帯に電話する。 ・・・・留守電になった。 今まで一ヶ月自分は電話に出なかったくせに、 ひろこさんの携帯が一回留守電になっただけで、彼は凹んでいた。 気を取り直して、彼女の家に向かう。 明かりはついておらず、留守だった。 手元の時計を見ると午後八時を過ぎていた。 いつもの彼女なら、とうに帰宅していないとおかしい時間である。 ハングル教室か?と思い、トオルに電話した。 「もしもし。」 とトオルが出る。 「お疲れ様、今大丈夫?」 家ではない場所にいるようで、周囲がざわついていた。 「大丈夫」 トオルが言う。 「俺さ、ひろこさんの家の前にいるんだけど。」 「何?ひろこさんの家の前にいるって?何でまた。」 と聞かれ、今までの経緯を話した。 思い込みと、ジェラシーの渦が 自分を苦しめていた事に彼は気付いた。 トオルに一通り話すと、彼はすっきりした。 「で、謝ろうと思ってひろこさん家の前にいるんだけど、 本人が戻ってきてなくて。 今日、レッスンじゃないよな?」 そう聞くと 「ああ違うよ。」 と返ってきた。 最近は忙しいようで、他の習い事も休んでるはずだし、 会社の飲み会でもない。 「どこに行ったかとか、知らないよね?」 ダメ元で聞いてみる。 「俺が知るわけ無いだろ。」 と、当然のようにかえってきた。 そうだよなと思う。 「ごめん、そうだよね。俺、ひろこさんが帰ってくるまで待つわ。 直接会って色々謝りたいからさ。」 「え?帰ってくるまでずっと待つの?」 トオルがびっくりしたように聞き返した。 「彼女が帰ってきたら、まず謝ってから、 改めて結婚を前提とした付き合いを申し込むつもりだ。」 タカヒトは手元にある、 黄色とオレンジのガーベラの花束を見て言った。 「分かった、好きにしろ。それなら長期戦になるな。」 「ああ、、覚悟してる。」 「あとで差し入れしてやるから、少し待っとけ。」 トオルはそういうと、電話を切った。 長い夜になりそうだ。 タカヒトは思った。
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