〈第十一章〉待ち伏せその4

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〈第十一章〉待ち伏せその4

「ひろこさん、遅いなあ。」 タカヒトは少し心細くなりながら、待っていた。 季節的に寒くは無いのが救いだった。 日はすっかり暮れている。 手元のガーベラが、少ししおれてきていた。 駅前のスタバを出たときに、通りの花屋で買った花束だ。 黄色とオレンジのガーベラを見た時、 彼は「ひろこさんだ!」と思って思わず買ってしまった花束だった。 万が一、そう万が一。 ひろこさんに振られたら、 この花を部屋に飾って、思い出に浸ろう。 そう彼は思っていた。 もちろんそうならない為の 今の待ち時間なのだが。 手元の時計を見ると、九時を過ぎていた。 ふとタカヒトは思い立った。 『ひろこさんが、他の男と帰ってきたらどうしよう・・・』 一ヶ月も放置していたのだ、ありえない話ではなかった。 急に心臓の鼓動が早くなった。 ひろこさんは、本人が言うほど 不細工でもないし太ってもいない。 むしろぽっちゃりした体型が、 エロティックでいいと、タカヒトは思っていた。 童顔でふっくらした頬も、眠たげに見える目も タカヒトは彼女の全てを美しいと思っていた。 たまたまみんな気付いていないだけで、 俺のほかにも彼女の事を良いなと 思っている男はいるはずだ。 タカヒトはそう思うと、 いても立ってもいられない気持ちになった。 何回か深呼吸して、気持ちを落ち着かせる。 徹夜してもいい、今日はここで待とう。 彼は心を決めていた。
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