〈第十二章〉待ち伏せその5

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〈第十二章〉待ち伏せその5

トオルはひろこさんに笑顔が戻ったのを見て、ほっとしていた。 思えば、タカヒトもひろこさんも、 ベクトルは違えど、容姿に関するプレッシャーとコンプレックスが強かった。 タカヒトの浮世離れしたところは 嫌いではなかったけど ひろこさんと付き合いだして『ただの男』になったタカヒトは より魅力的になったと思う。 そして、ひろこさんもトオルが田中先輩に引き合わせたときよりも 数段綺麗になっていた。 『人を好きになるって、凄い力だ。』 そう改めて思っていた。 自分もユキエと結婚する為に 必死で内定を取って、 先輩のしごきに耐えながら 仕事が楽しくなるまで無我夢中でやってきた事を思い出す。 全ては愛のなせる業だった。 ひろこさんの家に着いた。 人影が見える、タカヒトだろう。 時計は九時半を指していた。 「ひろこさん、ちょっとここで待ってて。」 アンパンと牛乳の入った袋をひろこに渡すと、 トオルは一人で車を降りて、タカヒトのところへ歩き出した。
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