〈第十三章〉待ち伏せその6

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〈第十三章〉待ち伏せその6

タカヒトが夜空を見上げながら突っ立っていると トオルの車が見えた。 「よう、大丈夫か?」 トオルがやってきたのが見えて、 タカヒトは少しほっとした。 「何とか大丈夫。花がちょっとしおれたけど。」 手元の花束に目線を落とした。 「花束。お前今までこんなの買ったことあったっけ?」 トオルがからかうように言う。 「ん、あるけど、欲しいと言われて探しに行った事しかない。 自分から買ったのは初めてだ。」 タカヒトは笑いながら言った。 「可愛い花だろ?ひろこさんみたいだ。」 ガーベラの花を優しくなでる。 そんなタカヒトをトオルは、目を細めて見ていた。 「なあ、そういえば腹減ってないか?」 トオルが言うなり、タカヒトの胃袋が音を立てた。 「めっちゃ空いてる。ひろこさんに会いたくて、 我慢してたけど限界かも・・・・。」 タカヒトが恥ずかしそうに言った。 「車にパンがあるから、取ってくる。少し待ってろ。」 トオルが車に戻る。 車の中から誰かが出てきたが、トオルではなかった。 誰だ? と、タカヒトが思っていると あっという間にトオルの車が走り去っていった。 「おい!トオル!」 タカヒトはトオルの車に向かって叫んだが、 彼の車はもう、陰も形も無かった。
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