〈第一章〉ひろこのため息

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「・・・・・ひろこさん、今日の帰り時間あります?」 「うん、大丈夫だけど?」 「じゃあ、うちに来ません?」 トオルの誘いに、ひろこは黙って頷いた。 レッスンが終わると、 彼の奥さんが娘を乗せた車で迎えに来てくれていた。 うわさには聞いていたが、会うのは初めてである。 ひろこは少し緊張しながら会釈する。 ユキエは色が白くて儚くて、 消えてしまいそうな繊細な女性だった。 「ひろこさんですね?はじめまして。」 にっこりと笑顔で挨拶されると、女のひろこでもドキドキした。 王子とトオルとユキエは同級生だから、 今年で29歳のはずだが 10代といわれても信じてしまうくらい初々しかった。 艶のあるストレートの髪が天女みたいだ。 「ユキエさん、こんばんは。 すみません、急にお邪魔しちゃって。」 ひろこは慌てて言うと、トオルに促されて車に乗り込んだ。 「ひろこさん、ユキエはいまだに学生に間違われるんですよ。 この間なんて、高校生にナンパされてた。」 トオルが自慢げに言う。 本当にユキエのことが好きで仕方ないと言う表情だった。 「ひゃあ!分かる!こんなに可愛かったら心配よね?」 ひろこは心から言った。 ユキエが苦笑する。 「もう、恥ずかしい。私そんなにモテませんよ!美雪もいるのに。」     
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