〈第五章〉絵になる彼女

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〈第五章〉絵になる彼女

ハングルの帰りに ユキエにすべて話を聞いてもらってからは ひろこはすっきりした気持ちで過ごせていた。 「岡田くんがひろこさんを嫌いになるなんて、ありえません。 彼なりの後悔があるんだと思いますよ。 もう少し、彼を信じて待ってあげてくれませんか?」 ユキエの優しい微笑みに救われた気持ちになって、 ひろこは黙って頷いた。 気持ちが落ち着くと、仕事もはかどる。 あれから数日、ひろこは会社ではすっかり元のひろこに戻れていた。 でも一人になると 『いつまで待ったら良いんだろう?』 先の見えないトンネルに入った気持ちで、少し憂鬱になる。 時々ため息をついては、 王子からの連絡を待つ日々だった。 会社の帰り道、ふと駅前のスタバを覗くと 窓際の席にカナが座っていた。 ゆるく巻いた髪をざっくりとまとめ、 水色のワンピースを着ている。 可愛くてとても良く似合っていた。 男の人と一緒のようで、なんだか楽しそう。 『彼氏かな?』 いたずら心で少し覗いてみようと思ったひろこは、 横にそっと回りこんでみる。 俯いて良く見えないが、 なんだか見覚えのある服だと思ったその時、 彼が顔を上げた。 「!?」 王子だった。 ひろこは二人に見つからないように そっとその場を離れて、走って電車に乗った。 気付けばトオルの家へ向かう方面の電車に乗っていた。 彼の家の最寄り駅で降りて、 前に聞いていたユキエの番号にかける。 すぐに彼女が出た。 「ひろこさん、何かあったんですね。」 ユキエが穏やかな声で言った。 「今どこですか?」 ひろこが駅名を告げると、トオルが迎えに来てくれた。
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